迫りくる生産緑地の2022年問題について不動産はどうなるのか?
2021/05/31
以前の記事「2021年以降懸念されている問題に不動産市場はどうなるのか?」で2022年問題について少し言及しましたが、2022年も迫ってきて生産緑地とその2022年問題について気になる方も多いようなので、今回はより具体的な内容についてお伝えします。
生産緑地の2022年問題とは?
1992年に生産緑地法の改正で定められた土地である生産緑地が、30年を経た2022年にその優遇と制約の期限が切れて生産緑地の指定が解除されることにより、地価や賃貸需要など不動産市場に対する影響や、都市環境の悪化などが起こることを危惧されている問題です。
生産緑地の指定解除がなされると、固定資産税の減免がなくなり所有することの負担が大きくなるため、一斉に宅地化されることが考えられ、結果として大量に市場に土地が供給されて地価の下落を引き起こすことが懸念されています。
生産緑地とは?
生産緑地とは、市街化区域内の農地のうち一定の条件を満たすことで指定を受けた農地のことで、土地の所有者は30年間の営農義務が課される代わりに固定資産税が大幅に軽減されるという利点があります。簡単にいうと、30年間農地として維持する代わりに税制優遇を受けられる土地のことです。
生産緑地として指定を受けるための定義は、社会背景の変化に伴って変更しながら現在は「良好な生活環境の確保に相当の効用がある」や「公共施設等の敷地として適していること」「農林漁業の継続が可能であること」「300平方メートルの規模であること」などです。
条件を満たし、生産緑地として指定された所有者には、多くの制約があるなかで30年間の営農義務が課せられます。その代わりに固定資産税がとても安く抑えられ、さらに相続税の納税猶予を受けることができます。
生産緑地ってどこにどのくらいあるの?
国土交通省の「令和2年都市計画現況調査」(令和2年3月31日現在)によると、全国では1万2,332.3ヘクタールあり、その約1/4にあたる3,017.9ヘクタール(全体の約24%)が東京都にあり、都道府県別では一番多いです。
それに続いて大阪府の1,900.5ヘクタール(約15%)、埼玉県の1,636.7ヘクタール(約13%)、神奈川県の1,276.4ヘクタール(約10%)、千葉県の1,054.7ヘクタール(約8%)、愛知県の1,019.5ヘクタール(約8%)となっており、主に都市部に集中しています。
東京都内の中では八王子市が226.9ヘクタールで一番多く、東京23区内に限ると練馬区の177.8ヘクタール、世田谷区の84.9ヘクタール、江戸川区の35.6ヘクタールと続いています。
これらエリアの内、地価下落が懸念されているのは高級住宅地として知られる世田谷区と、区域全体に生産緑地が分布されている練馬区が影響を受ける可能性が高いと指摘されています。
生産緑地の2022年問題に対する対応策は?
政府もこの問題に対して2017年の生産緑地法の改正により「特定生産緑地制度」を創設して、従来の税制優遇措置を10年間延長することとしました。
また、10年経過後に再度指定を受ければ、さらに10年間優遇措置が延長されます。
この他にも生産緑地への設置可能な施設が追加され、従来では直接農業に使用する施設のみでしたが、収益性の向上や維持を図ることを目的とした地元の農産物の加工・販売施設、レストランが設置可能となりました。
特定生産緑地制度を半数以上が利用して延長するとの予測データも出てはいますが、土地所有者の高齢化や農業の後継者不足は顕著で、特定生産緑地の指定制度だけでは大混乱は避けられても、土地下落の可能性を排除しきれるとは言い難いようです。
まとめ
2022年に生産緑地全体の8割が指定解除となり、大量の宅地が不動産市場に流通する可能性を問題視されていましたが、その問題を回避するための対策も取られ、一斉に宅地化する懸念は回避できる見込みです。
しかし、本質的には人口が減少しているなかで、空き家問題が目立っているにも関わらず、潜在的な宅地が存在しているという大きな問題を孕んでいますので、利活用が今後の課題とも考えられそうです。
新型コロナウイルスの影響も不透明のなか、今後の地価がどうなるか、不動産市場がどうなるか、見通しは困難だと思われます。そして生産緑地に関わってくる政府や自治体の対応や、デベロッパーなど業者の思惑をコントロールすることはできないので、環境の変化を注意深く観察することが肝心です。